規模のある新築工事では必ずピットが存在します。
そしてピットがあるということはピット内配管があるということ。
このピット内配管は少し独特で、戸惑うことも多いものです。
そこで今回は、ピット内配管のポイントとなる段取り・工具・資格についてまとめますので、ぜひ作業の参考にしてください。
ピット内配管に必要な資格
最初に大前提として資格についてお伝えしておかなければなりません。
なぜなら、ピット内作業は資格がないとできないからです。
資格が無いのにダマでやってしまう人や現場もあるのかもしれませんが、万一事故があった時にとんでもない事態になりかねません。
何せ、未だにピット内での重大事故がなくならないのですから。
そして重大事故の原因のほとんどが「酸欠」「硫化水素」によるもので、それを確実に防ぐために必要な資格が「酸素欠乏・硫化水素危険作業主任技術者」です。
また、ピット内で作業する全ての人が上記の資格を持っている必要はなく、主任技術者の指導の元で作業する作業員は「酸素欠乏・硫化水素危険作業特別教育」を受けている義務があります。
特別教育は現場で半日程度で終わるものもありますが、技能講習(主任技術者)は数日かけて実技も含めてみっちりと講習を受けて、テストに合格する必要があります。
とにかくこれらの資格は絶対なので、資格保有者がいない状況で作業しろと言われたら断固として拒否しましょう。
それでもやれと言うなら、その人に先に入って安全確認してもらいましょう。真面目に。
ピット内配管で用意しておくべき工具
ピット内配管は通常の部屋で配管するのとは訳が違います。
なぜなら、そもそも“部屋”ではないためドアや窓が無いのはもちろん、天井も低く暗いため、決してやり易い環境とは言えないからです。
加えて、地面より下のレベルでコンクリートに囲まれているだけの場合がほとんどですから、屋根ができるまでは雨水も流れ込んできますし、結露も半端ではありません。
そして基本的にはほとんど密閉されている空間ですから、酸欠や硫化水素に細心の注意を払った作業が必須です。
こういった環境を考慮し、特にピット内配管特有の用意しておくべき工具(主に仮設材)は以下となります。
- 酸素濃度測定器
- 送風機
- ハシゴ
- 照明器具・延長コード
- 台車関連
- 長靴
- 図面ケース
それぞれ簡単に説明していきますね。
酸素濃度測定器
酸素濃度測定器がなければ作業は不可です。
作業前に資格を持っている人(作業主任者)が、マンホールや点検口から何よりもまず最初に酸素濃度を測定し、規定の濃度であることを確認します。
入る場所が区切られている場合はそれぞれで計測するのは当然ですが、人通口で繋がっている場合も含めて数箇所で計測します。
使う測定器は必ず監督さんが用意してくれたものにしましょう。万が一正確に測れなかったら意味がありませんので。
送風機
送風機も必須です。
なぜなら、ピット内は非常に空気が通りにくいため、局所的に酸素濃度が低かったり硫化水素が滞留していたりするケースがあるから。
ピット内の空気を循環させ、できる限り新鮮な地上の空気と換気するべきなのです。
これは入る前だけとかではなくて、基本的にはピット内で作業している間、場合によっては日夜送風しっぱなしという現場もあるくらいです。
送風機は動作音が結構うるさいためどうしても作業中は止めたくなりますが、風が当たって接着ができないとかで無い限りつけておきましょう。
ちなみにタイプとしては扇風機のようなものではなく、蛇腹ダクトでつなぐことができる「中間取付型」を選んでください。
ハシゴ
タラップが無い場合(建設初期には取付けされていない)やダメ穴開口から降りる場合に必要です。
基本的には建築が用意する重量のある鉄梯子を使用しますが、無ければ自前で用意したり3尺程度の脚立をまっすぐに立てて使ったりします(使用許可は得てください)。
さすがにハシゴなしでの昇降は危険なので、必ず何かしら用意してください。
照明器具・延長コード
ほとんどの場合ピット内は真っ暗です。照明なしではとてもじゃないけど作業できません。
なのである程度しっかりした照明器具が必要となります。
例えばペンライトのような小さなものやヘッドライトではなくて、数十分〜数時間ひと区画を照らし続けられるものが良いですね。
人通口で区切られた区画を行き来するなら充電式が便利ですが、数日間まとまった作業をするのであればコード式の方がベターです。
また、電球の種類はLEDにしましょう。
白熱灯は濡れると割れてしまいますし、コンパクトなのに明るい製品が多いですので。
台車関連
台車は昇降口から入るコンパクトなものに限られるでしょう。
物を運ぶというよりは、自分が乗って移動する方が用途としては多いかもしれません。
ピットは天井高が低い場合が多く、移動しながらアンカーを打ったりバンドを吊ったりするのが億劫なこともしばしば。
高齢の職人さんや、腰や膝に爆弾を抱えている人には重宝するでしょう。
長靴
ピットはグランドレベル(地面)より下ですから、屋根が無いうちは雨水が全てスリーブなどを伝って流れ込みます。
また、コンクリートに囲まれていたとしても、湧水がかなり出てくる場合もあります。
なので水が溜まってしまうわけですが、そうなると長靴が欠かせません。
ポンプを段取って水を抜く段取りはするでしょうが、作業時に都合よく全てが抜ききれていることはまず無いでしょう。
注意したいのは、丈が長めのタイプにした方が良いということ。
状況によっては膝下くらいまで水が溜まっていることもあるので、少し長いハイカットくらいの丈では太刀打ちできないですからね。
図面ケース
どんなに規模の小さい現場でも図面がありそれに従って配管しますから、ピット内での図面の持ち運びが発生します。
そして前述の通りピット内は水気がすごいですから、紙の図面が濡れてしまうと使い物にならなくなってしまうのです。
そこで重宝するのが図面ケースです。
ほとんどの現場で図面は「A1サイズ」なので、透明でA1サイズのものを数枚用意しておくと良いでしょう。
そこそこの値段するので、できれば現場で用意してもらいましょう。
ピット内配管で押さえるべき段取り
最後にお伝えするのは、ピット内配管で押さえておくべき「段取り」に関すること。
これによって作業効率が格段にアップするので、全て頭に入れておきましょう。
明るさを確保する
地上階であれば少し暗くてもヘッドライトがあればほとんどの作業はできますが、ピットではそうはいきません。
本当に何も見えないほど真っ暗なケースもあるので、明るさの確保は優先して考えましょう。
広範囲でまとまった期間作業をするなら、水没しないように延長コードを張り巡らし、水気に強い投光器を段取りましょう。
その際のポイントは以下です。
- ライトの適切な置き場所が無いことを想定し、三脚を用意する
- 延長コードの接続箇所は簡単に外れないよう結いたり紐で縛ったりする
- あらかじめ人通口の箇所を把握し、最小限の配線にする
- 1箇所落ちたら全て消えるような配線にはしない
- 全て自分(自社)だけで段取ろうとせず他業者や建築と協力する
素晴らしい現場だと、ドラム・延長コード・照明などを全て段取ってくれることもありますし、逆に何もしてくれず全て自前のケースもあります。
いずれにしても、事故の元になりますから、必ず照度は確保してください。
水を抜く
屋根がない段階で全く水が溜まらない(濡れない)ピットというのは、ほぼ存在しないと言って良いでしょう。
つまり、溜まってしまった水を抜く段取りは必ずしておくべきだということ。
何を使うかと言えば「水中ポンプ」「ゼロポンプ」と呼ばれる電動のポンプで、もし「チリトリとバケツでどうにかしてくれ」なんて言われる現場があったら、できるだけ早く退散しましょう。汗
水を抜く際のポイントは以下です。
- 長い距離ホースを引くこともあるため、延長用のホースが複数あった方が良い
- 上記以外にもサニーホースがあると柔軟な長さ調整が可能
- 距離が長くなりすぎる場合は複数のポンプで中継が必要
- ポンプ本体に吸込み口があるタイプや本体から吸込みホースが伸びているタイプがあるので使い分ける
- 呼水がないと動作しないタイプもあるので注意
- 水を吐き出す場所が絶対に濡れても良い(水が溜まっても良い)ことを必ず確認する
さすがにこのポンプを自分で何台も段取る職人は見たことがありませんので、ゼネコン・サブコンと相談の上で用意してもらいましょう。
ドブメッキ・ステンレス鋼に対する段取り
ピットは結露がすごいので、支持金物はドブメッキやステンレス製であることがほとんどです。
ドブメッキやステンレス鋼は通常のメッキ製ならあるはずの規格が無かったり、納期がかかったりすることがあるので注意が必要です。
それに加えて特に注意したいのが「加工のしにくさ」です。
例えば全ネジは全ネジカッターで切断するにも専用刃が必要ですし、アングル材などに穴あけしようとすれば、いつも使っているパンチャーで可能かどうかを確認する必要があります。(ステンレス鋼は硬いため)
また、ステンレス製のボルトナットを使うなら、強烈に締めつけすぎるとかじりついて(ガジって)しまい外れなくなることがあります。
逆にドブメッキ製の全ネジの場合、切断した後によくバリを取らないと全然ナットが入っていかないこともあります。
こういった特有の内容を想定した道具の段取りが必要になることは必ず想定しておきましょう。
少なくとも、全ネジのバリ取りは必須です。
結露を警戒
結露の影響を最も受けるとすれば、塩ビ管の接着とエーパッド 貼りでしょう。
接着は水気があると漏れに繋がりますし、結露で水滴が付いている面にエーパッドは貼りつきません。
ですので、まずはいつもより多めのウエスを段取るのはもちろん、エーパッドが貼れるようにコンクリート面を炙って乾かすガストーチも用意しておいた方が無難でしょう。
それから、墨を出す際にもデッキ面や躯体面が濡れていることが多いですから、濡れていても書けるようなラッカー系のマーカーが重宝するでしょう。
フーチングなどのセーフティーゾーンや深めのバケツを利用
溜水に関しては前述の通りですが、地面に水が溜まってプールになっている状態で何が1番問題かといえば、道具が水没しないようにしなければならないことでしょう。
工具類はカゴにまとめて、フーチングや人通口の上などのセーフティーゾーン(さすがにそこまでは水位がこないだろう箇所)に置くのが基本です。
もしそのような箇所が全く無いのなら、深めのバケツに工具を入れて持ち運びましょう。
経験上、膝くらいまでの水位なら対応できます。
以下は元々ペンキを入れるようなバケツですが、深めで頑丈なため重宝します。
今回のまとめノート
ピット作業は通常の地上階に比べると様々な制約があります。
今回ご紹介したような道具や段取りを考えておけば、より快適にスムーズに作業が出来るでしょう。
ピット作業の際にはぜひ参考にしてください。
では、良い配管工ライフを!
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